「鉄骨の梁や鉄製什器にビス穴を開けたくない」「賃貸・イベントで撤去・移設前提だから糊を残したくない」「冷蔵ショーケースやラックの金属面に粘着が効かない」——こうした現場で有力なのがマグネット(磁石)固定です。マグネット式のアルミフレームやマグネットクリップを使えば、ビスも両面テープも使わずに鉄部へLEDテープを載せられ、撤去後もきれいに原状復帰できます。一方で、磁石は付く材質が限られる・横方向(せん断)に弱い・熱で磁力が落ちるという固有のクセがあり、これを外すと「数週間後にずり落ちた」という事故になります。本記事では、マグネット固定の方法・必要な保持力の計算・放熱と落下の注意点・施工手順を施工業者向けにまとめます。

最初に確認: 磁石が付くのは鉄・鋼などの磁性体だけです。建材で多いステンレス(SUS304など)・アルミ・銅・木・樹脂・ガラスには付きません。「金属だから付く」は誤りで、同じ什器でも材質で可否が分かれます。着手前に必ず手持ちの磁石を当てて吸着を確認してください。

マグネット固定が向く現場・向かない現場

マグネット固定は万能ではありません。下地が磁性体かどうか、撤去・移設が前提か、落下リスクの大きさで採否を判断します。

向いている現場向かない現場
鉄骨梁・鉄製什器・スチール棚・配電盤・機械装置など磁性体の面ステンレス(SUS304等)・アルミ建材・木・石膏ボード・樹脂など非磁性の面
賃貸・イベント・展示会など撤去・原状復帰が前提恒久設置で振動・荷重が常時かかる場所(ビス固定が適)
レイアウト変更や器具交換で頻繁に位置を動かす頭上・人の出入り直上など落下が即危険になる高所
ビス穴を開けられない・開けたくない下地高温環境(磁力低下)・粉塵で吸着面が汚れやすい場所

非磁性の面でも使う裏ワザ: アルミや木の下地でも、薄い鉄板(スチールプレート/マグネット受け)を両面テープやビスで先に貼り、その上にマグネットで載せれば、移設のしやすさだけ活かせます。要は「磁石が付く面」を人工的に作る考え方です。

マグネット固定の3つの方法

取り付け部材は主に次の3タイプ。テープ単体で貼るか、アルミフレームごと固定するかで選びます。

方法仕組み向いている用途放熱
マグネット式アルミフレームアルミフレームの底面・専用脚に磁石を仕込み、フレームごと鉄部に吸着放熱とカバー(拡散)も両立したい本設・準本設◎ フレームで放熱できる
マグネットクリップ/マグネットバー磁石付きのクリップや受け金具を鉄部に置き、テープやフレームを挟む・載せる位置を頻繁に変える・仮設・点検口まわり○ クリップ部のみ接触
マグネットシート+テープ直貼りマグネットシートにテープを貼り、磁性面へ載せる軽量・短尺・簡易な演出△ 放熱しにくく短尺向き

本設に近いほどフレーム式: マグネットシートにテープを直貼りする方式は手軽ですが、放熱が取りにくくシートの保持力も小さいため、長尺・高出力には不向きです。長く点灯させる本設に近い用途では、放熱と保持を両立できるマグネット式アルミフレームを基本に考えると失敗が少なくなります。

保持力の考え方|「せん断」で見る

マグネット固定で最も誤解されやすいのが保持力です。カタログに載る吸着力は、面に対して真っすぐ引き剥がす(垂直方向)の値です。ところが壁面・天井面の設置では、力は横ずれ(せん断方向)にかかり、実際に効く保持力は垂直値の20〜30%程度まで落ちます。ここを混同すると「カタログ上は余裕なのにずり落ちる」事故になります。

必要マグネット数 N = 総重量×安全率 ÷ せん断保持力

総重量=フレーム+テープ+カバー

せん断保持力の目安 垂直吸着力の20〜30%

壁・天井の横ずれ方向で効く実力値

安全率 3〜5倍

落下=人身・什器破損。高所ほど大きく

計算例(1mのフレーム付きテープを壁面に)

アルミフレーム+COBテープ+拡散カバーの重量を約0.45kg/mとし、1m=0.45kgを壁面(せん断方向)に固定する場合:

  • カタログ吸着力が1個あたり2kg(垂直)の磁石なら、せん断保持力は約0.4〜0.6kg/個(20〜30%換算)
  • 安全率4倍とすると必要保持力=0.45kg×4=1.8kg
  • 必要数=1.8kg ÷ 0.5kg/個 ≒ 約4個/m(25cm間隔目安)

下表は重量と設置向きごとの「マグネット間隔の目安」です(垂直吸着力2kg級・安全率4倍で試算。製品の実測値で必ず置き換えてください)。

総重量(/m)床置き・上向き設置壁面(せん断)天井・下向き(引き剥がし)
約0.3kg/m(軽量フレーム)40cm間隔でも可30cm間隔20cm間隔+脱落防止
約0.45kg/m(標準フレーム+カバー)30cm間隔25cm間隔15cm間隔+脱落防止
約0.7kg/m(大型・二重カバー)25cm間隔15〜20cm間隔マグレ+ビス併用推奨

天井・頭上は磁石だけに頼らない: 下向き(引き剥がし方向)設置や頭上は、落ちれば即危険です。脱落防止ワイヤー、コーナーでのビス・金具併用で必ず二重化してください。マグネットは「位置決め・主保持」、ビスは「最後の歯止め」という役割分担が安全です。

放熱・絶縁・減磁の注意点

固定できても、熱・絶縁・磁力の温度特性を外すとLED寿命や安全に響きます。

  • 放熱は鉄部が味方になる:アルミフレームを鉄部へ密着させると、鉄が放熱面(ヒートシンク)として働き温度面ではむしろ有利です。逆にマグネット脚でフレームが浮く構造だと放熱が落ちるため、高出力テープは接触面積を確保します。
  • 金属面への直貼りは絶縁必須:テープを鉄部に直接貼る場合、短絡・感電を防ぐ絶縁処理が要ります。金属面への取り付けと絶縁を参照してください。マグネット式フレームでも筐体が金属なら絶縁・アース(接地)に配慮します。
  • ネオジム磁石は熱で弱る:強力なネオジム磁石は高温で磁力が低下します(種類により80℃前後から顕著)。LEDの発熱+環境温度が高い場所では、保持力の低下を見込んで間隔を詰める・耐熱グレードを選ぶなどの対策をします。
  • 吸着面の汚れ・段差:塗装の凹凸・サビ・粉塵・油膜があると吸着力が落ちます。設置前に面を清掃し、平滑な部分を選びます。

マグネット固定の施工手順

  1. 下地確認:手持ち磁石で吸着を確認し、磁性体であること・平滑であることをチェック。非磁性ならスチールプレートを下地に追加。
  2. レイアウト・採寸:テープ長・電源位置・カット位置を決める。レイアウト・採寸カット位置を先に確定。
  3. 必要保持力の算定:総重量×安全率÷せん断保持力でマグネット数・間隔を決定(上表)。
  4. 面の清掃:吸着面の油・粉塵・サビを拭き取り、密着を確保。
  5. マグネット配置・装着:等間隔でフレーム/クリップを吸着。端部・コーナーは保持力が抜けやすいので重点配置。
  6. 脱落防止:高所・下向きはワイヤーやビス・金具を併用して二重化。
  7. 結線・通電確認:極性・配線を確認して通電。電源配線極性を最終チェック。
  8. 保持の最終確認:軽く横方向に押してズレないか、振動を与えても保持するかを確認して引き渡し。

マグネット固定 チェックリスト

  • 下地は鉄・鋼などの磁性体か(磁石で吸着を実測したか)
  • 非磁性面ならスチールプレートで磁石受けを作ったか
  • 設置向き(床置き/壁面せん断/天井引き剥がし)を把握したか
  • 必要保持力=総重量×安全率(3〜5倍)で計算したか
  • カタログ値でなくせん断保持力(垂直の20〜30%)で見たか
  • 端部・コーナーにマグネットを重点配置したか
  • 天井・頭上はワイヤー/ビスで脱落防止を二重化したか
  • 金属面直貼りの絶縁・アースを確認したか
  • 高温環境での磁力低下(ネオジム)を見込んだか
  • 吸着面の汚れ・サビ・塗装段差を清掃・確認したか

マグネット固定は、ビスも糊も使わず鉄部にLEDテープを載せられ、撤去・移設にめっぽう強いのが最大の利点です。鍵は「付く材質を実測で確認する」「カタログ値でなくせん断保持力で設計する」「高所・下向きは必ず二重化する」の3点。この3つを外さなければ、仮設から準本設まで安全に使える固定方法になります。

よくある質問

ステンレスやアルミの面にもマグネットでLEDテープを固定できますか?
磁石が付くのは鉄・鋼などの磁性体だけです。建材で多いステンレス(SUS304など一般的なオーステナイト系)・アルミ・銅・木・樹脂・ガラスには付かないため、マグネット固定はできません。同じ「金属の什器」でも材質で可否が分かれるので、施工前に手持ちのネオジム磁石を当てて吸着するか必ず確認してください。付かない面では、薄い鉄板(磁性体)を両面テープやビスで先に下地として固定し、その上にマグネットで載せる方法もあります。
マグネット固定でLEDテープが落ちてこないか心配です。安全率はどれくらい見ればよいですか?
カタログの吸着力は「面に対して真っすぐ引き剥がす(垂直)」値で、壁面や天井面のように横ずれ(せん断)方向に力がかかる設置では、実際に効く保持力はその20〜30%程度まで落ちます。落下は人身・什器破損につながるため、フレームとテープの総重量に対して、せん断保持力の合計で3〜5倍の安全率を確保し、マグネットを等間隔に配置してください。高所・振動のある場所・人が触れる位置では、マグネットだけに頼らずビスやコーナー金具を併用して張力を逃がすのが安全です。
鉄の什器に直接LEDテープを貼ると放熱や感電は大丈夫ですか?
鉄部(磁性体)にアルミフレームごと密着させると、鉄が放熱面として働きむしろ温度面では有利になることがあります。一方で、テープを金属面へ直接貼る場合は短絡・感電を防ぐため絶縁処理が必須です。マグネット式アルミフレームでも、筐体が金属で充電部に近い場合は絶縁とアース(接地)への配慮が要ります。また、ネオジム磁石は高温で磁力が下がる性質があるため、LEDの発熱と周囲温度が高い場所では保持力低下を見込んでください。

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