「飲食店の照明はとにかく安ければ良い」という時代は終わりました。
照明設計が客単価と滞在時間を直接左右することは、飲食業界では広く知られています。
2700K低照度設計で客単価が12%以上向上した実績がある一方、適切な演色性なしでは料理が不味そうに見えて逆効果になります。
本稿では100席規模の居酒屋チェーン店の全面LEDリニューアル事例を、電力データ・施工仕様・実測効果まで包み隠さず公開します。
1. 施工物件概要
330㎡
延床面積
100席
客席数(テーブル70・カウンター30)
4ゾーン
照明ゾーン構成
44%
電力削減率
12%
客単価向上(6ヶ月後実測)
18分
平均滞在時間延長
改修前の課題:蛍光管直付け2本で均一に明るい「ファミレス的な光」が問題でした。オーナーから「明るすぎて飲み会の雰囲気が出ない」「料理は明るく見せたいが落ち着かない」という相談でした。
リニューアルのコンセプトは「料理に当たる光はRa90以上で鮮度感を担保しつつ、空間全体の雰囲気照度を下げて居心地を高める」という二軸設計です。
2. 飲食店照明の色温度基礎知識
2200K — 超暖色(囲炉裏・キャンドル)
個室・VIPブース向け。非常に落ち着いた雰囲気。料理の赤みが強調されすぎるためRa85以上で補正が必要。滞在時間の延長効果が最大。
2700K — 暖色(白熱球相当)
居酒屋テーブル席のスタンダード。肉・揚げ物が美味しそうに見える赤みの演出。Ra90以上で料理の自然な色が引き立つ。滞在時間と客単価の双方に好影響。
3000K — 温白色(ハロゲン相当)
エントランス・カウンター向け。2700Kより明るく見え、活気ある雰囲気を出しながら温かみを保つ。刺身・魚介類の鮮度感向上に適した色温度。
4000K — 白色(蛍光灯相当)
厨房・バックヤード・調理スペース向け。青みがかった光で作業効率を維持。客席には使わない。食材の色が「本当の姿」に近く見える。
Ra値(演色性)の重要性:同じ2700Kでも、Ra80の蛍光灯と Ra90のLEDテープでは料理の見え方が大きく違います。Ra80以下では肉の赤みが褪せて見え、刺身の輝きが失われます。居酒屋・レストランでは最低Ra85・理想はRa90以上を選ぶことを強く推奨します。
3. ゾーン別施工仕様
| ゾーン | 場所・用途 | 色温度 | Ra値 | 消費電力 | 延長 | 総電力 | 目標照度 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Zone A | エントランス・ホール | 3000K | Ra90 | 10W/m | 20m | 200W | 150〜200lx |
| Zone B | テーブル席(70席) テーブル面・壁面間接 |
2700K | Ra90 | 8W/m | 60m | 480W | 80〜120lx (テーブル面150lx) |
| Zone C | カウンター席(30席) カウンター下・上部棚 |
2700K | Ra90 | 10W/m | 25m | 250W | 100〜150lx |
| Zone D | 個室・半個室(4室) 天井コーブ・テーブル下 |
2200K | Ra85 | 6W/m | 32m | 192W | 50〜80lx |
全ゾーン COB 24V テープライト採用。フリッカーフリー・DC定電圧電源により料理を撮影した際にも縞模様が入らない。スマートフォン撮影でも美しく見える光は、SNS投稿・口コミ増加にも直結します。
Zone D(個室)の2200K採用は本案件の最大の特徴です。2700Kより赤みが強く、キャンドルのような温かみを演出します。完全個室で外光と混じらない環境だからこそ2200Kが成立します。
4. エネルギー削減データ
| ゾーン | 改修前(蛍光管) | 改修後(COB LED) | 削減電力 | 削減率 |
|---|---|---|---|---|
| Zone A エントランス | 380W(Hf32W×10本) | 200W | 180W | 47% |
| Zone B テーブル席 | 840W(Hf32W×24本) | 480W | 360W | 43% |
| Zone C カウンター席 | 440W(Hf32W×12本) | 250W | 190W | 43% |
| Zone D 個室 | 360W(電球60W×6×4室) | 192W | 168W | 47% |
| 合計 | 2,020W | 1,122W | 898W | 44% |
年間電気代削減試算(営業時間16時間・365日):898W × 16h × 365日 × 25円/kWh(目安) ≒ 年間約131,000円削減。初期材工費の回収期間は約4〜5年(照明工事費のみ)。
5. 時間帯別 調光シーン設計
全ゾーンにPWM調光コントローラーを設置し、時間帯・シーンに応じて照度を変化させます。
| シーン | 時間帯 | Zone A エントランス |
Zone B テーブル |
Zone C カウンター |
Zone D 個室 |
|---|---|---|---|---|---|
| ランチ営業 | 11:00〜14:00 | 100% | 100% | 100% | 80% |
| アイドルタイム | 14:00〜17:00 | 60% | 70% | 80% | 50% |
| ディナー開始 | 17:00〜19:00 | 100% | 90% | 100% | 80% |
| ディナーピーク | 19:00〜21:00 | 80% | 70% | 90% | 60% |
| 深夜・居酒屋モード | 21:00〜閉店 | 50% | 50% | 70% | 40% |
| 清掃・撤収 | 閉店後 | 100% | 100% | 100% | 100% |
「深夜・居酒屋モード」の狙い:照度を下げると退席を促すのでは?という心配はご無用です。適度な低照度(50〜70%)は「もう一杯」という心理を引き出す効果があります。実測でZone Bを50%調光した時間帯の追加注文数は、100%時より平均15%高い結果が出ています。
6. リニューアル6ヶ月後の実測効果
+12%
客単価向上
(同期比)
(同期比)
+18分
平均滞在時間延長
44%
電力削減率
4.3→4.7
Google口コミ評価
(雰囲気項目)
(雰囲気項目)
+28%
Instagram食事写真
タグ付け投稿増加
タグ付け投稿増加
0件
「暗い」クレーム
(6ヶ月間)
(6ヶ月間)
「暗い」クレームが0件である理由は、テーブル面への直接照射(タスク照明)と空間全体の雰囲気照度(アンビエント照明)を分離した設計にあります。テーブル面には150lxの十分な照度を確保しつつ、視野の周辺(壁・天井・床)は意図的に低照度にしています。
Instagram投稿増加は予想外の副次効果でした。COBのフリッカーフリーにより、スマートフォンの高速シャッターでも縞模様が入らず、料理写真が綺麗に撮れることが口コミで広まりました。
7. 電源・配線の施工仕様
| ゾーン | テープ総電力 | 電源容量(×1.2) | 電源台数 | 給電方式 |
|---|---|---|---|---|
| Zone A(20m) | 200W | 240W以上 | 300W電源 × 1台 | 両端給電(10m×2区間) |
| Zone B(60m) | 480W | 576W以上 | 300W電源 × 2台 | 3区間分割(各20m) |
| Zone C(25m) | 250W | 300W以上 | 300W電源 × 1台 | 片端給電(24V品で25m以内) |
| Zone D(32m) | 192W | 230W以上 | 200W電源 × 2台 | 4室各8m独立回路 |
飲食店の施工で注意すること
厨房蒸気・油分が電源部に付着しないよう、電源は天井裏・壁内のクリーンな場所に設置。テープ末端はシリコンキャップで密封し、清掃時の水分侵入を防ぐ。
個室の2200K電源は独立回路で
個室ごとに独立した電源と調光器を設置。「個室だけ消す」「照度を客の好みに合わせる」運用が可能になり、個室利用客の満足度が上がる。
カウンター下の施工は防護必須
カウンター下は足元で物がぶつかるリスクがある。アルミチャンネル+透明カバー(またはシリコンチューブタイプ)でテープを保護する。IP44品を推奨。
8. 飲食店照明で失敗しないための注意点
❌ Ra80品で肉・刺身を照らした
Ra80以下では肉の赤みが褪せ、刺身の透明感が失われる。「料理が美味しそうに見えない」とレビューに書かれた事例あり。飲食店はRa90以上を必ず選ぶ。
❌ 全体を2200Kにした
極端に暗く赤みが強いと「ムーディーすぎて気持ち悪い」という感想になることがある。テーブル面のタスク照明に100lx以上を確保し、低照度は空間光のみに使う。
❌ 調光なしの100%固定設計
ランチとディナーで同じ照度では、夜の雰囲気が出ない。調光コントローラーとPWM対応電源のセット投資は、数万円で客単価12%向上というROIが出る可能性がある。
❌ SMDテープで天井コーブを作った
コーブ照明の反射面にSMDを使うと、天井に素子の点々が映り「安っぽい」印象を与える。間接光にはCOBが絶対的に有利。